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忘年某月某日
都電の駅とJRの駅が交差する、繁華街から少し外れた場所に有る一軒家。暗い道を少し進むと、木造の家屋が見えてくる。看板を探すが見つからない。何と、民家のような表札に、店の名前が書いてある。これは、たいへんわかりずらい。しかし店主の自信が垣間見られる。
木の引き戸をくぐると、日本酒の良い香りがしてくる。
通された席は、日本酒を、良い状態で保存する大きなセラーの前で、たくさんの日本酒のラベルを観ながら飲める良い席。ここの店主は、山形の蔵元と親しい様で、通の好みの酒をおいている。食卓の上には、和ろうそくのが灯り、何ともゆっくり日本酒を飲むには最高の雰囲気である。
酒は、双虹をお願いする。器も店主のお気に入りの作家の方に焼いていただいたものだそうだ。やわらぎ水も、造り酒屋の仕込み水で、一升瓶でだしていただく。
お通しは、老舗らしく三品。
やはり汁物が一品。鯉のつみれ汁。これがなかなか美味い。川魚特有の臭みがなく、旨味が汁の方にうまくでている。空きっ腹で飲む時には、汁物はありがたい。
刺身は、五種盛りで、少しずつ綺麗に盛られている。やはりここでも鯉の洗いが入っている。聞けば佐久より取り寄せているとのこと、美味いはずである。
揚げ物も、工夫があり、ポテトのコロッケだが、中にはレンコン、チーズが入っており春巻きの皮でアイスクリームコーンの様に巻き、そのまま揚げた工夫の一品。
鍋の準備ができ、沢山の野菜が少し煮た状態で、食卓に置かれる。次に大皿に盛られた葱、水菜、鴨の薄切りがたっぷりでてくる。憎い演出で、この具材はしゃぶしゃぶとして食べる様にとのこと。煮込まないので、鴨の甘み、水菜のシャキシャキ感が大変生きる。店主こだわりのポン酢でいただく。大変美味い。
締めは雑炊。
卵でとじるのが定番だが、今日は店主の計らいで、何と大量のイクラでとじていただく。ここでは雑炊は、板前さんが厨房でしたてて持って来てくれる。ルビーが散りばめられた様な美しい雑炊である。雑炊を褒める事はなかなかないが、確かにうまい。
まだ食べられると思われたのか、二階から、いしりをつけて火鉢で焼いたという、いしり餅をご馳走してくれた。(2階は、座敷があり店主が、火鉢の前に座りお客様をもてなすそうである)
店主の印象をお伝えしておこう。
まさに仙人の風貌。作務衣を着て、鬚をたくわえ、長髪で、日本酒が大好きで、味見を兼ねて、飲みながら仕事をされている様子。日本中探してもなかなかいらっしゃらない、個性的な方である。
いろいろと酒のご指導をいただくように、また通いたい、大切なお店である。 |